1.商標権の侵害とならない場合(その6)
(商標権の行使が権利濫用に該当する場合)
2.労働者派遣事業とその周辺(2)
労働者派遣に類似した請負事業について

「商標権の侵害とならない場合(その6)」(商標権の行使が権利濫用に該当する場合)
1.はじめに
商標権は独占排他権であるため、正当な権原のない第三者が登録商標をその指定商品等に使用すると、商標権の侵害となるのが原則です。しかし、商標権の行使が民法上の権利濫用に該当するときは、商標権の侵害とはなりません(民法1条3項)。
2.権利の濫用に該当するとして、商標権の侵害ではないとされた事例
(1)「天の川事件」(東京高裁 昭和30年6月28日 高裁判例集第8巻5号371K頁)Xは、昭和25年頃から熱海市において、商品まんじゅうに商標「天の川」を付して販売し、宣伝広告に努めた結果、商標「天の川」は需要者の間に広く認識されるようになりました。
一方、Zが、昭和28年から熱海市において、商品まんじゅうに商標「天の川」を付して製造販売を始めたため、XはZに対して不正競争防止法による販売禁止を請求し、仮処分を得ました。そこで、Zは、商標「天の川」について商標権を得るため、商標登録出願をしましたが、出願商標「天の川」は、明治製菓が所有する登録商標「銀河」に類似するとして出願拒絶理由通知を受けました。このため、Zは、明治製菓より登録商標「銀河」の商標権を譲り受け、新たに設立した会社Yの名義にしました。
Yの登録商標「銀河」と、Xの使用商標「天の川」とは類似し、商標権の効力が及ぶため(商標法37条1号)、YはXに対して、Xによる商標「天の川」の使用の差止を求めて静岡地裁沼津支部に出訴し、仮処分認容の決定を得たため、この決定を不服とするXは異議申立をし、取消判決を得、この判決を不服とするYは東京高裁に控訴しました。
東京高裁は、Xの多大な宣伝広告により広く認識されるようになった商標「天の川」の名声につき、Yはこれを利用する目的で登録商標「銀河」の商標権を譲り受けた後、Xによる商標「天の川」の使用の差止を請求することは権利の濫用であるとして控訴を棄却しました。
(2)「ポパイ事件」(最高裁 平成2年7月20日 判時1356-132 判例集1
82頁)最高裁は次のように判示しました。ポパイの文字にポパイの図形を組み合わせた登録商標の出願当時において既にポパイの文字は想像上の人物と不可分一体のものとして世人に親しまれてきた。したがって、ポパイの文字からポパイの人物像を直ちに連想するというのが、今も、出願時においても変わりはない。この点で、ポパイの文字にポパイの図形を組合わせた登録商標は、ポパイの人物像の著名性を無償で利用しているものにほかならない。
商標法は公正な競業秩序の維持を目的の1つとしており、著作権者の許諾を得てPOPEYEの商標を付した商品を販売する者に対して商標権の侵害を主張することは公正な競業秩序を乱し、権利の濫用であり、許されない。
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(文責)弁理士 川瀬 裕之
労働者派遣事業とその周辺(2)
今回は、労働者派遣に類似した請負事業についてお話します。
● 請負と人事派遣との違い
請負とは、労働の結果としての仕事の完成を目的とする契約です。注文主から依頼を受
た請負業者は仕事の完成を約束し、その仕事が完了すれば請負料金の支払を約束します。
請負業務の代表的なものが建設業です。
発注者から注文を受けた施行業者は、建築工事の完成を約し、それが完了すれば約束の請負代金が支払われます。
建築工事を行うにあたって、施工業者は自らの雇用する労働者を工事現場に出向かせて業務を行わせます。
依頼のあった業務に労働者を従事させることが人材派遣と似ていますので、混同しやすいですが法的に全く異なります。
人材派遣が労働者が派遣先で具体的な指揮命令を受けて業務に従事するのに対し、請負は労働者は雇用主である施行業者からの指揮命令は受けますが、依頼者(発注者)から指揮命令を受けることはありません。
依頼者(発注者)と労働者との間に指揮命令関係がある場合は、労働者派遣法の適用を受ける労働者派遣になります。
請負は、注文された業務の完成を目的としているのに対し、派遣は業務そのものを依頼するものです。
請負により事業を行う場合、派遣のように禁止されている業務はなく、契約は自由に行われます。
ただし、建設業の許可ように業務を請け負う業者に対して、一定の許可や認可が求められるものはあります。
●いわゆる偽装請負
業務請負の契約をとっていても、依頼者が直接業務について指揮命令を労働者に対して行なっている場合があります。
形式的には請負ということにし、労働者派遣であれば当然義務化されている派遣元・派遣先の責務を逃れようとすることを偽装請負といいます。
偽装請負が行なわれていた理由のひとつに、改正前の労働者派遣法によって派遣が許可されていたいわゆる26種以外の業務について、特に製造業については、法で規制されていたため請負や業務委託という形をとっていたことが考えられます。
また、労働者派遣であれば厳格な法のもとに労働時間管理や安全衛生法の遵守など、派遣先企業にも適切な労務管理が求められるので、派遣先もその責任を回避してきた背景もありました。
請負には、発注者と受注者の会社間で請負契約するもの・業務を行なわせる労働者とも請負契約・業務委託契約を結んでいるものもあり、後者であれば、労働者は法的には労働法の保護を受けることができません。
この偽装請負については、厚生労働者もその摘発に努めており、労働者派遣と請負に行われる事業との区分に関する基準を通達にしています。
その基準を満たさない事業については、契約や業務遂行方法を見直す必要があるでしょう。
(文責)行政書士・社会保険労務士 谷口 恵子